7 戦士マーキュロ
翌日の新聞に、その事故のことが出ていた。
トラックはあのときスピードを出しすぎていて、あのボールがあらわなければ、おばあさんの命はなかっただろうということだった。
そして興味深いことに、その記事の横に、ボールのことが書かれていた。
あのボールは、グレナダ島の伝説によくにているという話だ。
グレナダ島は、この街から遠くはなれた海に浮かぶ美しい島だが、昔は国と国が争って支配しようとした歴史がある。
グレナダ島のあるグレナディーン諸島は、多くの盗ぞくのかくれ家となっていた。
ある日、グレナダ島は盗ぞくたちに占領された。グレナダ島の人々は次々と殺されていった。
そのころ、ぼくらの町のマーキュロという戦士が立ち上がり、 グレナダ島へ盗ぞくを退治にでかけた。
彼は島の人々を守るために、勇かんに戦った。
マーキュロはずるがしこい盗ぞくたちにてこずっていた。
しかし、彼はグレナダ島のムーアという占い師から、ファット・オーブという水晶を受け取った。
それは古代から伝わる秘法で作り出された水晶で、持ち主に強大な力をあたえるとされる。
オーブの力は持ち主の心によって善悪に分かれるため、慎重にあつかわなければならない。
ファット・オーブを手にしたマーキュロは、超人的な力で盗ぞくを退治したのだという。
そのときのマーキュロの姿が、まるでボールのようだったということだ。
ぼくは新聞を折りたたみ、テーブルにおいた。
ぼくとランディは、ぼくの家にいた。
これから二人で、学校へ出かけるところだった。
「その話だったら、ぼくも知っているさ。なにをかくそう、ムーアじいさんはぼくんちの遠いご先祖さまだもん」
ぼくがバッグを背中にかつぐのを待って、ランディが言った。
ぼくたちはスニーカーをはいて表へ出た。
ランディはひとりごとのように言った。
「でもどうして、この町へやってきたんだろう。 ファット・オーブはグレナダ島にかくされているはずだぞ」
ぼくはかなりうたがう目つきをしてたずねた。
「うたがうつもりはないんだけど、ムーアじいさんという人は、本当にきみのご先祖さまなのかい」
「本当さ。フィル、信じてくれよ。ファット・オーブをかくしたのも、おじいさんなんだ。マーキュロが戦いに勝ったあと、グレナダ島のみさきにうめたんだ。あのオーブは悪いことが起きようとすると、光りを放つようになっている。光っているオーブは、使命をうけた戦士にしか使えないって聞いている」
ぼくはさらにたずねた。
「ファットオーブをかくす理由はなんだろう?ずっとマーキュロが持ってるわけにはいかなかったの?」
「かくす理由は…つまり、その…オーブの力を使いこなすには、ある条件が必要なんだ」
「ある条件ってなんだ?」
「ある条件ってのは、つまり、その…」
ランディは頭をかかえた。必死で思い出そうとしていた。
ぼくはランディの親友だ。こういう時はこいつはデマカセを言うに決まってる。
「もういいよ、ランディ。わかんないんだろ?」
「うん、ごめん。わかんないよ。でも戦う必要が無くなったら、オーブを手放さなきゃならないってことも聞いたんだ」
「それはなぜだい?」
「ええと、それは…」
「またか…無理しなくてもいいよ。わかんないんだろ?」
「ごめんな。ちゃんとパパから話は聞いてたけど、オレ、わかんないんだ」
「ランディには、おじいさんもガッカリだよ」
ぼくは空を見上げた。
ランディにはすまないけど、これまでの話って、ぼくにはとても信じられなかった。
でっかいアドバルーンが町を転がっていって、変な交通事故があって、 ふしぎな担任の先生がやってきて…。
たしかにこの町には最近、おかしなことが続いているけど、そんな伝説とはなにも関係がないと思うんだ。
ランディのやつったら、なんでもすぐにとっぴなことにむすびつけたがるけど。
信じていいのやら、信じちゃいけないのやら…。
でも伝説の中の話が本当だとすると、今度はだれが使命をうけたんだろう。
つづく
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